【スクリーニング方法実践解説】わが投資術 市場は誰に微笑むか【清原達郎 著】

清原達郎さんの書かれた『我が投資術 市場は誰に微笑むか』を紹介します。

こんな方におすすめ

  • 清原氏の実践する「割安小型成長株」投資に興味のある方
  • 長者番付1位になった著者の考え方を身に着けたい方
  • 800億稼いだ伝説の投資家の半生を知りたい方
わが投資術 市場は誰に微笑むかジャンル
著者
出版社
出版日
ISBN
ビジネス・経済
清原達郎
講談社 出版社ページへ
2024年03月01日
978-4-06-535035-5

本書では、投資に対する清原氏の心構えや、ヘッジファンド(タワーK1ファンド)を立ち上げるに至った経緯からK1ファンドで具体的にどのような運用を行ったか、そしてこれからの日本株市場がどうなるかについて言及されています。

当ブログでは、清原氏が実際に行っていた「割安小型成長株」投資を紹介し、具体的なスクリーニング方法を解説します。

手っ取り早くスクリーニング方法を知りたい方は「スクリーニング方法実践」に飛んでください。

 

著者紹介

清原 達郎(きよはら たつろう)

1981年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業。同年、野村證券に入社、海外投資顧問室に配属。スタンフォード大学で経営修士号(MBA)取得後、86年に野村證券NY支店に配属。91年、ゴールドマンサックス東京支店に転職。その後モルガン・スタンレー証券、スパークス投資顧問を経て、98年、タワー投資顧問で基幹ファンド「タワーK1ファンド」をローンチ。2005年に発表された最後の高額所得者名簿(長者番付)で全国トップに躍り出る。23年、「タワーK1ファンド」の運用を終了し、退社。

 

清原氏実践の「割安小型成長株」投資

割安小型成長株投資とは

著者は、K1ファンドの運用を始めて以来、小型株をロングポジションの中心に据えてきました。その理由は、小型株の多くは基本割安に放置されていて、その中で成長株に投資できれば爆発的な破壊力になるから、といいます。

25年にわたって運用したファンドにおいて基本戦略としたのは、それだけこの手法に対する信頼と実績があるからです。

清原氏は割安小型成長株を以下と定義しています。

割安小型成長株の定義

  • 割安:PERが10倍以下、かつ、ネットキャッシュ比率が1以上
  • 小型:時価総額500億円未満
  • 成長性:経営者が企業を成長させる強い意志を持っているか

定義1:割安であること

PERが10倍以下であること

PER(株価収益率)とは、株価がEPS(1株あたり純利益)の何倍になっているかを評価する指標で、企業が将来に渡って向こう何年間利益を上げ続けられるかを表しています。

その企業に対する「期待度」と表現されることもあります。(数値が大きいほど期待されている、小さいほど期待されていない)

PERの平均は、セクターによって異なりますが、日本の上場企業全体では15倍程度とされています。

清原氏が定義する「PERが10倍以下であること」は、その企業が投資家から期待されていない(=安く評価されている)ことを表しています。

 

ネットキャッシュ比率が1以上であること

ネットキャッシュとは、一般には、手元流動性(現金・預金+有価証券)から有利子負債を差し引いた金額で、キャッシュリッチ(金余り)の度合いを示します。

が、清原氏の定義はすこし異なり、ネットキャッシュおよびネットキャッシュ比率を以下と定義しています。

ネットキャッシュおよびネットキャッシュ比率とは

  • ネットキャッシュ  = 流動資産 + 投資有価証券 ✕ 70% ー 負債
  • ネットキャッシュ比率 = ネットキャッシュ / 時価総額

ここで投資有価証券に70%をかけ算している理由は、一般的にコストが簿価を大幅に下回っていることが多く、現金化すると税金を払わないといけないためです。税金を大雑把に税率30%と見積もり、その分を差し引く計算としています。

このネットキャッシュの値が、「会社が破綻した際、同じ値段で売れる資産がどれくらいあるか」を表しています。

よって、ネットキャッシュ比率が1以上であるというのは、ネットキャッシュが時価総額を上回っている状況で、会社が破綻した際に時価総額以上の金額を株主に返還できます。筆者の言葉を引用すると、「会社がただで買えるほど割安」ということになります。

 

定義2:小型株であること

時価総額が500億未満であること

明確な定義があるわけではないですが、一般的に小型株は1000億未満といわれることが多いです。

清原氏は、より小型な株を対象とするために、この投資法における大型株、中型株、小型株を以下と定義しています。

時価総額による株式の区分

  • 大型株 時価総額3000億円以上
  • 中型株 時価総額500億円以上、3000億円未満
  • 小型株 時価総額500億円未満

よって、今回の投資法では時価総額500億円未満の企業を投資対象とします。

 

定義3:成長性があること

経営者がその企業を成長させる強い意思を持っていること

企業の成長性を見極めることはもちろん難しいわけですが、、見極めるポイントとして清原氏は以下を上げています。

成長株見極めポイント

  1. 経営者がその企業を成長させる強い意思を持っているか(必要条件)
  2. 社長と目標を共有する優秀な部下がいるか
  3. 同じ業界内の競合に押しつぶされないか
  4. その会社のコアコンピタンス(強み)は成長とともにさらに強くなっていくか
  5. 成長によって将来のマーケットを先食いし、潜在的マーケットを縮小させていないか
  6. 経営者の言動が一致しているかどうか

この中でも圧倒的に大切なのが「1.経営者がその企業を成長させる強い意思を持っているか」であるといいます。この点については、ホームページや社長の発言などを見て絶対に確認すべき、とのことです。

私としても多少なり企業分析を行ってきた経験上、創業者自身がオーナーであり数年以内に上場させたばかり、というような会社では経営者が非常にエネルギッシュで、実際に数年以内に株価を大きく伸ばしているケースが多くあり、個人的な感覚とも一致しています。

その他の要素についても、企業の財務状況やビジネスモデルについて調べる中で、注目すべき観点として頭においておくと、成長性の見極めがうまくいく、かもしれません。

 

小型株投資の優位性

小型株の優位性として以下の4つが示されています。

  • そもそも小型株は割安な株が多い
  • 独自のリサーチがしやすい
  • 機関投資家が持っていない
  • アナリストがカバーしていない

小型株はその流動性の低さから低PER、低PBRになりがちだといいます。

低くなるべくして割安になっている小型株が多い中で、それにつられて割安に見積もられている小型株が存在し、砂の中から砂金を見つけるがごとく小型成長株を探す必要があります。

そして流動性の低さとボリュームの少なさから機関投資家は手を出すことができないのも、個人投資家にとって勝ちやすい条件の一つです。


また、個人投資家にとっては大きな要素として、「負けにくい(負けたとしても大きくならない)」かつ「勝つ時は大きく上昇する」ことをあげています。

そもそもが割安に放置されているため、それ以上に株価が小さくなる可能性が低いです。そして上昇する際には大きく上昇するため、最低でも2倍以上の株価上昇を狙うべき、と著者はいいます。

 

スクリーニング方法実践

ここからは、清原氏が推奨する割安小型成長株の探し方を、具体的なスクリーニング方法に落とし込んだ検索方法を解説します。

手順1 ざっくりスクリーニング

バフェット・コードの銘柄スクリーニング機能を使って、おおまかにスクリーニングを行います。今回の使い方であれば無料で使用可能です。

スクリーニング条件

  • PER(会予) ≦(以下) 10 倍
  • 時価総額 ≦(以下) 50000 百万円
  • 負債 他の科目と比較 ≦(以下) 流動資産

出典:バフェット・コード

「表示科目」は、時価総額、負債、流動資産の3つがあればOKです。他の科目はあってもなくてもかまいません。

無料プランの場合、上位100件しか表示できません。

全てを確認するには、業種を指定して検索結果を100件以下にしたのち、再度業種を変更してスクリーニングしなおすことで対応可能です。いくつかの業種を選択してスクリーニングを繰り返してください。

スクリーニングが完了したら、検索結果の表を選択・コピーして、Excelやスプレッドシートに貼り付けます。

スクリーニングが完了

 

検索結果をコピー

 

Excel or スプレッドシートに貼り付ける(図はExcelに貼り付けた例)

続けて、ネットキャッシュ比率を算出します。貼り付けたExcel上の余った列で、暫定のネットキャッシュとネットキャッシュ比率を計算してください。

※ここではざっくりとしたスクリーニングを行うため、投資有価証券×70%の値はいったん無視します。

ざっくりスクリーニング用のネットキャッシュ

  • ネットキャッシュ  = 流動資産 ー 負債
  • ネットキャッシュ比率 = ネットキャッシュ / 時価総額

『ネットキャッシュ(K列)=流動資産(J列)-負債(I列)』で計算

 

『ネットキャッシュ比率(L列)=ネットキャッシュ(K列)/時価総額(H列)』で計算

 

ネットキャッシュ比率が計算できたら、フィルターをかけてネットキャッシュ比率が大きい順に並べ替えます。

1行目を選択して『ctrl + shift + L』を押すことでフィルタをつけて、ネットキャッシュ比率欄のフィルタから『降順』を選択します。

1行目を選択して『ctrl + shift + L』

 

ネットキャッシュ比率のフィルタを開いて『降順』をクリック

 

企業の並び替えが完成!

以上で、割安で小型な企業がネットキャッシュ比率の高い順に選別されました。

 

手順2 じっくり企業分析

ネットキャッシュ比率が高い順に確認していって、成長が期待できそうな企業を探します。ネットキャッシュ比率が0.8くらいの企業まで見ていきます。(※理由は「注意点」で後述)

まずは、一般的なファンダメンタルズ分析で行う通り、企業の基本情報、各種バリュエーションや、直近の決算などを確認していきます。

ファンダメンタルズ分析の具体的な方法については当記事では割愛しますが、株探やマネックス証券の銘柄スカウターがわかりやすくておすすめです。

株探は基本無料です。銘柄スカウターはマネックス証券で証券口座を開く必要がありますが、口座開設もツール使用も無料です、銘柄スカウターを使うためだけとしても開設する価値があると思います。


合わせて、清原氏が示す成長株見極めポイントを確認していきます。

成長株見極めポイント

  1. 経営者がその企業を成長させる強い意思を持っているか(必要条件)
  2. 社長と目標を共有する優秀な部下がいるか
  3. 同じ業界内の競合に押しつぶされないか
  4. その会社のコアコンピタンス(強み)は成長とともにさらに強くなっていくか
  5. 成長によって将来のマーケットを先食いし、潜在的マーケットを縮小させていないか
  6. 経営者の言動が一致しているかどうか

1と2は、企業ホームページの社長あいさつや(あれば)役員の情報を確認します。また、YouTubeや各種SNSで社長本人が情報を発信していればそれも確認して、経営者としてどのような考え・心構えとしているかを見ていきます。

3,4,5は、企業のセグメント比率やビジネスモデルを把握したうえで、競合他社が存在するか、存在する場合はシェアの比率はどれくらいかを確認していきます。

3,4,5の確認後、それが1で見た経営者の発言と一致しているかどうかを確認します。


以上の順序にて、対象企業に成長性があるかを判別します。

企業成長性の見極めは難しく、私もトライ&エラーといったところですが、銘柄を分析するうえでの一つの考え方として吸収し成長できればと思っています。

 

注意点

手順1で説明の通り、ここで紹介したネットキャッシュの計算式は清原氏の紹介した式と若干異なります。

ネットキャッシュに『投資有価証券×70%』を含めるべきところ、今回は含んでいないので、清原式より値が小さく算出されています。

なので、清原氏は『ネットキャッシュ比率が1以上であること』を割安の基準としていますが、ここのスクリーニング方法ではもう少し小さな値(0.8くらい)までを確認の対象としてください。

ただし、ネットキャッシュ比率が1.0未満の企業を分析する際は、最新の決算から財務諸表を確認し、『投資有価証券×70%』の金額をネットキャッシュに加算してください。

投資有価証券は以下の手順で確認できます。

投資有価証券の確認手順

  1. 株探で対象の企業を検索
  2. 「ニュース」タブを押す
  3. 「決算速報」タブを押す
  4. 1番上(日付が最新)の決算を開く
  5. 「決算短信PDF」を開く
  6. 財務諸表の「投資有価証券」を探す

 

9434 ソフトバンクを例に図説します。

株探で対象の企業を検索して、『「ニュース」タブ > 「決算速報」タブ > 最新の決算 > 決算短信PDF』をクリック

 

決算が表示されるので下にスクロースしていって…

 

投資有価証券の項目を探す

 

見つけた投資有価証券の金額を70%にしてネットキャッシュに合算して、ネットキャッシュ比率が1.0以上になれば清原式スクリーニングとして問題なしです。

 

個人投資家(初心者)におすすめする200万円の実践モデルケース

清原氏が個人投資家(初心者)向けにおすすめする投資のモデルケースを紹介します。

初心者が実践する場合、まず以下の2点を前提としてあげています。

前提

  • 信用取引はせず現物で取引すること
  • NISA制度を利用すること

その上で、余裕資金が200万場合を例に、以下の投資をおすすめされています。

200万円投資のモデルケース

  • 100万円でTOPIXのETFを購入
  • 残り100万円で、10万円程度の割安小型成長株を10銘柄購入

詳しく解説していきます。

100万円でTOPIXのETF

大型株に分散投資する目的でTOPIXのETFを100万円分購入します。

ETFとは上場投資信託の略称で、特定の指数(TOPIXなど)に連動する運用成果をめざすインデックス型と、そのような連動対象指数を定めないアクティブ型があります。

清原氏いわく、「大型株は自分でリサーチしても得るものは少ない」そうで、日本市場全体に連動するTOPIXのETFを購入しておけば十分であるといいます。

TOPIXのETFとしては「NEXT FUNDS TOPIX連動型上場投信」が代表的です。NISAの成長投資枠で購入できます。

10万円程度の割安小型成長株を10銘柄

当記事で紹介したようなスクリーニング方法で、まずは20銘柄ほどを監視対象としてお気に入りに登録して、株価の動きを日々確認します。

そして、いろいろな追加情報を得ながら、一番いけそうな銘柄から順番に10万円程度ずつ買っていきます。または、相場全体が急落した場合には、監視銘柄の中で得に大きく下がった10銘柄を一気に10万円ずつ購入します。


余裕資金として1000万円以上ある人は、10銘柄100万円ずつ購入してもよいと紹介されています。

いずれにしても、TOPIX連動のETFを一部購入して大型株を保有しつつ、選び抜いた10銘柄に残りの資産を分散します。

 

まとめ

清原達郎さんの書かれた『我が投資術 市場は誰に微笑むか』を、割安小型成長株のスクリーニングに注目して紹介させていただきました。

今回の記事をまとめると以下のとおりです。

まとめ

  • 割安小型成長株投資がおすすめ(特に個人投資家)
  • 時価総額500億円未満でPER10倍以下、かつ、ネットキャッシュ比率が1以上の企業を狙う
  • 経営者がその企業を成長させる強い意思を持っていること
  • 最低でも株価上昇2倍は狙う

私個人としても、割安株投資は損しずらく比較的リスクの低い投資だと考えていて、主軸に据えている投資方法なので、伝説の投資家である清原達郎が公開してくれたこの本の内容はとても刺激的で勉強になりました。

今回は割安小型成長株のスクリーニングに注目して紹介しましたが、本の中では、清原氏が野村證券の海外投資顧問として働かれ、その後ヘッジファンドを立ち上げるに至った経緯などかなり具体的に描写されています。

伝説の投資家清原氏の半生を知りたい方は、ぜひ本書を手にとって読んでみてください!

 

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